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三女物語〜巻の一へ
癌が再発したサクラ・・・・・・・・・・ゥゥゥゥゥゥゥゥの巻
やっぱり、サクラの癌が再発しました。堪らない事です。家中は暗澹たる空気で満ち溢れ、火が消えたような毎日です。
家族誰もが、暇さえあればサクラのご機嫌を窺い、また体調を按じては、
「チャーコは体調はどんなですか・・・・・・・」などと幼児語で本人に問いかけております。
「しかし、なんだな母ーさんよ、歳をとれば人間様も大部分が癌になるって言うじゃない。サクラは14歳なんだから、癌も仕方ないかもな」
「ウウウウウウウウ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「アガリスクまで呑ませて、再発したんだから寿命なんだよ」
「ウウウウウウウウ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
亭主への愛情の600倍くらいをサクラに注いでいた家内には、私の慰めなど、国会での野党のヤジほどの意味しかありません。
「そいじゃ母ーさん、私は会社に行ってくるから、あんまり心配しないで、なるようにしかならないんだから」
「やっぱり手術はやめようか・・・・・・・、痛い思いをさせるのも可哀想だし、このまま安楽死をさせてはどう・・・・・・・・・・」
すでに手術費用の半額を小遣いから支払っている私としては、心を決めています。
「とにかく最善をつくして天命をまとうじゃないか。それであと半年でも生きてくれたら安いもんだし・・・・・・・、我が家の三女だからトコトンみてやろう・・・・」
私は、最初の癌の手術以来脱毛が止まらなくなって、最近やっと少しは毛が生えだしてチョッキを着込んだサクラの寝姿を一瞥して、後ろ髪を曳かれながら家を出たのです。それは、寒波が日本を覆っていた寒い朝でした。
手術の当日、それまで殊の外大事にされたサクラは、やはり元気がありません。家族もその日はなんとなく落ちつがず、午前中から何度も家にも家内の携帯にも電話しては、手術の結果を聞いてばかりです。ところが手術は午後らしく、まだ結果が知れない事に誰もが少し苛立っているように見えるほど、それは深刻だったのです。
手術後に聞いた話では、まだシコリが小さかった為に大変楽に取れたとかで、手術の切り口も小さく、またサクラも以前のようには乳房も取られず、我が家の家族は一同取敢えず安堵したのです。
「母さん、どの程度の癌だったのか聞いたんだろう・・・・・・・・・・・・・」
「とにかく小さい塊だったらしくて、それが癌がどうかは組織検査しなければ云々・・・」
「おい、ちょっと待てよ、みりゃ判るでしょ癌か他の腫れ物かは」
「だって、断定出来ない事を先生もおっしゃらないわよ」
「いや、それでもどっちかは強引に聴くべきだろう、強引にさ」
「私は、貴方とは違います。先生が判ってらっしゃるなら、言われる筈です。」
「そりゃ、判るけど、組織検査の結果までが、僕らとしては不安じゃないの・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「堪えるんですよ、貴方は。堪え性がないんだから貴方って人は」
「ウッ、ウウウウウウウウウ・・・・・・・・・ワン」
てな訳で、まだ組織検査の発表がなくて、外の寒さに身を凍らせている今日この頃の小林家です。
サクラ癌になる・・・・・・・・の巻
ある日、私がボンヤリとサクラを横にして転寝をしておりました。私は、お酒には弱いのですが、今日の休日は一日ボンヤリとして過ごすと決めたら、まず朝からビールを飲んで、運転も出来ないという怠惰な状態にしておきます。これは、ありとあらゆる言い訳をするのに実に都合がよく、しかも間違いなくその昼の内、6時間は寝て過ごす事が可能なのです。 その日も、朝から私は日光浴をしながら寝そべっていたのです。その枕元に誰かが来たと思ったら、サクラのお腹を撫でまわしたとお思い下さい。 「たーいーへーん、サ−コのお乳にシコリがある・・・・・・」 「ナナナナナナナ、ナヌー・・・・・・・・・・・・・・・・」 私は蒸かし芋のようになった脳味噌に、大量のホルモンを放出させ突然正気になると飛び起き、情けない事に、 「かあさん、大変だ・・・・・・・サクラが癌らしいぞ」と、まず我が家の実質的統率者であり権力者であるところの、家内にそう喚いたのです。それから、各自の携帯電話から電波が全国に発せられ、北海道の次男やら広島の次女、あるいは知り合いの医師にまでその事実がしらされ、獣医師に見せるまでにサクラは乳癌ということになったのです。 そのあくる日だったかそのまた次の日にか、サクラは掛かりつけの獣医師の診断を受け判定の為の組織検査を行いました。そして一週間後、やはり予想通り、サクラは乳癌であるとの診断を得ました。 「ウウウウウウウウウウ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・サクラ、そういえば最近お前は本当に元気がなかったからな、なんでもっと早く気付かなかったか・・・・・・・」 「お父さん、サクラは助かるだろうか・・・・・・、死んだらどうする・・・・・・・」 家族皆がそう言い合いながら、悲嘆にくれつつサクラの手術予定日をまったのです。 当日、サクラがあまりに短時間であっさりと手術され、みんな拍子抜けしました。人間なら4時間とか5時間とか掛かるような手術が、1時間半と、とにかく短かったのです。多分、名医なのですサクラの主治医は。その証拠に、手術は成功との事。ただし、今後注意して様子を見るとのことでした。 「あー、良かった良かった、・・・・・・・・サクラ、お前のいない小林家は考えられないよ」 「そうそう、元気にならなきゃね、サーコ」と家内 「あっ、そうだ先生がおっしゃるには、サクラは今後一年間抵抗力をつける為に、アガリスクを毎日呑ませたが方がいいとおっしゃってたわ」 「えっ、ナニ、なんだって、アガリスクって、あの高い健康食品・・・・・・・・・・」 「そう、アレよ」 「で、なんなの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「毎月、一万円かかるんだって・・・・・・・・・・・、それで相談なんだけど、貴方にサクラへの愛情と余裕があれば・・・・・・」 「ハイハイ、サクラへの愛情の踏み絵かよ、ひっでいな最近、いつも家族で出掛けても費用は俺の小遣いだし」 「いや、無理にとは言わないから、もしサクラへの愛情があればという・・・・・・・」 「はいはい、払います払います、タバコもやめたし、何もかも億劫でお金を使わなくなったから・・・・・・・・・・・・・・」 というわけで、それからサクラは毎日アガリスクを食べることとなりましたが、なんと、サクラは以前より見違えるほど元気になり、周りの者はそのアガリスクの効果に驚いたのです。 それから毎月、家内はアガリスクの残量を声高に言うのです。 「サーちゃん、そろそろアガリスクが少なくなったわよねー、あと五日分くらいかなー」 「ウウウウウウウウウウウ、またかよ、エーイ、泥棒、もってけー」 ってなわけで、一丁アガリスクじゃなくて、一丁上がりの僕です。
■ ジャガー横田かサクラか・・・・の巻■
「おーい、母さん、ジャガー横田の出産をテレビでやってるぞ」
私の誘いに物見高い家内も家事をほったらかして、テレビの前に座り込みました。すると、予想通り・・・・・・・・・
「優しそうで、育ちの良さそうな旦那さんだわね・・・・・・・、うちとは違って・・・・・・・・」
「お前ってやつは、必ずどっかの旦那と比較しては自分の亭主をおとしめる事を言う。本当に悪い癖だ・・・・・・」
私はこのような迫害にも負けず、以前からファンだったジャガーの亭主が出る番組は、暇さえあれば見る事にしています。なんでかって、あんな鬼ババァにくっつく亭主の忍耐とは、どれほどのものか知りたいがためと、テレビで見せるジャガーの暴力は演技で計算づくなのか、それとも本気なのか、それが知りたいのです。
しかし、見れば見るほど、ジャガーの目は凶暴であり、実に人相が悪いですね。育ちが出ている、その事です。それに引き換え亭主の木下氏は医者でもあるからか、穏やかで、品が良いのです。こんな人の良さそうな亭主に、人前でヘッドロックをするところを見ると、あの暴力は地である、そう思いつつ、彼女の出産シーンを見ていくうち、なるほど、割れ鍋にとじ蓋とはよく言ったものだと、なんとなく、この夫婦の運命の必然性に得心したのです。 なんの事はない、二人は互いに無いものを補って惹きあったのです。ジャガーの野生、竹下氏の知性と教養。
「そうなんだ、それしかないな。なーるほど」などと一人合点したいたら、ナレーターがジャガー47歳の高齢出産と言うではないか。
「エッ、ウッソー・・・・・・・・・」47歳で初産なら、危ないだろうに・・・・・・・・・。
しかし、あの鬼嫁あっぱれではないか。わが子が中学校入学時に60歳なのです。早く年金生活がしたいと夢見ている私には考えられない事です。
■ サクラの冤罪・・・・・・・ ■
古今東西、完全に正義が行われた時代、あるいは国家はありません。あの民主主義の権化のような態度をとるアメリカでも、文明国となったのは僅か30年前です。公民権運動によるものですが、しかし、現在となっても人種差別は厳然たる事実となって残っています。映画で見る限り、粗暴犯罪は黒人、ヒスパニックによるものという白人等の先入観により、彼ら、特に黒人らの冤罪事件の筋書きが多いのは周知の通りです。
さて、我が家を振り返ってみると、大統領であるところの私による統治宜しく、家族が和気あいあいとしているのは事実ですが、意外にも、あってはならない冤罪事件も起こるのです。その冤罪の犠牲者は、なんと、我が家の三女にして末っ子のサクラなんです。それも、彼女が人間の言葉が話せないことを良いことにしての、卑劣な犯行によるものです。
しかし、それにはサクラ自身にも問題があるのです。サクラが居間で寝ていたとしましょう。そこには座卓があって、上にはカステーラが一切れ、無防備に皿の上に置かれていたとします。私たちは家族なのですから、誰がそれを食べようと咎める事はありませんが、しかし、サクラは獣医さんの指導により、虫歯が出来てはまずいので甘いものは食べさせない、という決まりがあります。当然、サクラもそのような物を口に入れてはマズイと、自身では理解している筈です。しかし、我々がその部屋を空けようとする時、それでも、サクラは三女とはいえお犬様という事もあって、サクラの様子を確認して出るのです。確認というのは、サクラが「そんな物にはまったく興味はなく、私は今とっても眠いんです」という、その無関心の醸し出す雰囲気と眠っている姿、あるいは寝息を聞き取るのです。
「よかった・・・・・、サクラはグッスリ眠っている。このまま、そーーーーーっとして出掛け・・・ましょ・・・・・・ぅ」
という塩梅で、抜き足、差し足、忍び足で、その場を離れたとしましょう。ところが、その部屋を抜け出たあと、なんか、それでも、なんか変だなーという気がして、引返してみると、その間15秒ほどで、ナント、サクラは座卓に身体を乗り上げて、今にもそのサラをひっくり返してカステーラを、いただきもぁーすのモードだったのです。こんな具合ですから、サクラは抜け目ない娘と、そう家族では思われております。
さて、ある日曜日の昼下がり、家族が居間に一同に集まって、食後の成り行きで昼寝をしていた時の事。
「うっ・・・・・、臭い、クサイ・・・・・・誰だ・・・・・この匂い」と長男
「ほんとだ、・・・・・・だれ、誰なの・・・・・・」と家内
家族が突然自分を襲った異臭に気付き、騒ぎ出したのです。
「こんな世慣れしたクサイのは、絶対にお父さんだ!!!!」と次女
「何を言ってんだよ・・・・・、お父さんの訳ないだろう。お父さんは自分がしたならしたと、ハッキリ言うよ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「なんなんだよーーーー、みんな父さんを疑って・・・・。この匂いは、
クサイ子ちゃんのサクラだよ、そう絶対サクラだよ・・・・・」
「へぇー、貴方はもの言えぬサクラのせいにするの・・・・・・」
「ひっでい、親父だな・・・・・」
「そうそう・・・・・」
「うーーーーー・・・・・・・・・・・」
「お父さんでしょうが・・・・・この臭い」
「そう絶対にお父さん」
「そうそう・・・・・」
こんな時、サクラはどうかと見ると、彼女は「くさい」という言葉に大変敏感なのです。
「くさい」→誰もが近寄らない→寂しい→しぶしぶシャンプー→家族が喜ぶ→自分も一緒に居られる→出来れば布団で寝たい・・・・・・この連鎖を瞬時に判断するのか、「くさい」という言葉=私の悲劇という意味合いで拒否反応を示すのです。
「わかった、嘘は言いません。そうです、やりましたお父さんがやりました」
サクラの罪のない瞳で悲しそうに見つめられた私は、良心を取り戻し、人間の言葉が話せない為に無実を主張できなかったサクラに、心で詫びたのでした。
そして5分後・・・・・・・
「うっ・・・・・、臭い、また、スッゲイクサイ・・・・・・誰だ・・・・・この匂い」とまた長男
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「今度はサクラです、絶対にサクラです・・・・・絶対に・・・・今度はホント」
「・・・・・・・・・・」
「犬猫以下ですね・・・」
「そうそう・・・・・・」
■サクラは話せる女でございます・・・・・の巻■
犬は、喩え我が家のサクラのような、やんごとなき娘ではあっても、人間様と話をして自らの意思を伝えるという行為は出来ません。伝え聞くところでは、バウリンガルという犬の鳴き声を翻訳する、そんな玩具だか端末があると聞きます。が、どうせ適当なところで「何かを欲しがっている」あるいは「恐怖心を抱いている」というような、感情だけの分析翻訳はなっても、主語 + 動詞 + 目的語 つまり S V O などという高度な翻訳は出来ないはず。
多分に、「・・・・・・・それは・・・・・一体・・・・・何を・・・・・欲しがっているの・・・・」というように、我々人間様の高度な推測が必要となるはずです。ウッ、ゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・ワンが、レアな牛肉を意味するなどとは、お犬様も表現は出来ないのです。
しかし、しかし我が家のサクラは違うのです。彼女は具体的に意味を伝える能力を与えられているのです。これはもう、僥倖であって奇跡そのものです。小林家で育てられるという、その特権を享受出来る者だけにしか可能でない、特殊能力とでも言いましょうか、お犬様のXメンなのです。
例えば彼女の場合、飯台の上の葡萄が欲しい時は、まず最も我が家で威厳に満ちた私の真ん前に来て、そして徐にいいちゃんこ(出雲地方では良い姿勢、あるいは正式な姿勢という意味)になって、よそ見している私をひたすら見つめるのです。ここまでで、彼女が胡桃ほどの脳味噌で熟慮した事は、家人の中でで最も頼りになるのは私であり、私でなければこの家での重要な事項は何事も決まらないという厳然たる掟です。サクラはファミリーのゴッドファーザーの偉大さを知っているからこそ、このような素直な態度をとったのです。
私は、面白い番組を見たり、喩え高尚な本を読んでいても、親子ですからその熱い視線に当然気付きます。
「ウッ・・・・・・・、何だ・・・・その熱い視線は」
と私がたじろぐように、彼女の訴えを知ろうとその澄んだ円らな瞳を覗こうとした、その時です、
サクラは、
「お父様が見つめなければならないのは、飯台の上の葡萄でございます」
とでも言うように、間髪を入れずその飯台の方向に視線を移すのです。
「エッ、何それって・・・・・、なんなのサクラ・・・・・・・」
そのように、私が動揺を隠せないでいると、彼女はまた徐に私を熱く見つめるのです。
「エッ、エー・・・・・・・・、それって何なのさー・・・・・」
と、私がまた不思議がって戸惑っていながらも、サクラの目に吸い込まれるように覗こうとすると、
またぞろ彼女は視線を飯台の葡萄に移すのです。
「エッ、ナニ、ナニ・・・・・一体全体、何なんだサクラ・・・・・」
それを繰り返すこと数回、私はハタと気付くのです。
「そうなんだ、サクラは葡萄が欲しいんだ。それを私に気付かせるように、ボディランゲージをしていたんだ。賢い、サクラ、お前は本当に賢い。それでこそ、私と母さんが産んで育てた三女なんだ・・・・・・・・。あっ、違ってた、僕等はサクラの両親ではなかったんだよな、そう、お前はお犬様でした・・・・・・」
どうですか、皆さん、サクラの賢い事と言ったら、その辺のアホな犬とは、もう何もかも違うでしよう。近隣の犬と我が家のサクラとの違いは、亀田三兄弟と甲子園の斉藤投手くらいの差があるのです。
意思の伝達が見事に出来るのです、素晴らしい、実に素晴らしい。しかも、仕草は品良く淑やかで、なんと魅力的な事か・・・・・・。 そうだ、今度はサクラにハンカチで私の顔を拭かせるようにしよう・・・・・・・・・・・・
■頑迷なサクラは巌のごとく・・・・・・・・・の巻■
「お父さん、今日こそはサクラの散歩をしてください、朝も夜も貴方がしてくださいよ、今日は仕事がないんだから。だいたい、本来の目的からして・・・・・・・・・」
「そう、もう言うな。そうです俺の健康の為と子供の情操教育の為に、そう、サクラを飼うといったのは私です」
まるで桜の木を切ったと白状するワシントンのような有様です。家内がブツブツ言うのは当然で、この半年、ヤレ仕事が忙しいの、更年期障害で散歩する意欲が出ないなどと、適当なことを言っては逃れていたのです。私も確かに休日くらいは散歩をすべきなのです。しかし、その日の土曜は朝からの吹雪で、窓越しの庭の風景は、我が家族を怠惰にするには充分の迫力がある荒れ模様でした。
(そうだ・・・・・・・高血圧の僕にはこんな寒風のなかで犬の散歩なんて、ロシアンルーレットのように危険極まりない行為だな。やめよか・・・・・・・・・・・)
私が外を見て意思を砕かれたと察した家内は、早く、早くと矢のような催促です。
「面倒だなー本当に、そうだな、それじゃー、少しばかり周辺をうろうろしてくるか」
「なーにを言ってんの、サクラの散歩は充分にさせないとウンチが出て来ないんだから、20分程度はしてください」
「いや、そのつもりだよ、そのくらいは早足で歩かないとダイエットにはならないからね。だけどサクラはついて来れないんだよ、僕の足が速いから。だから、まっ、状況を見て判断するということで・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「わかりやした、十分に散歩させてきますです、ハイ、牢名主様」
サクラを散歩させるのは、昔は随分と楽だったのです。黙っていても扉を開けると飛んで出て、ご主人様を引きずり回すほどの勢いで前へ前へと走り出したものですが、今では様子が違うのです。トボトボと歩いては、自分の興味ある場所ではテコでも動かないのです
「さぁー、サクラさんや・・・・、さぁっ、動きまちょうね、いい子ちゃんだから・・・・・・、さぁー、さぁー・
・・・、もう、頼むから動いてよ・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「コラッ!!!!ウゴケー・・・・・」
そう言って綱を引っ張ると、
「ゲボッ・・・・・・・・・、ゲボッ・・・・・・、ウーーーーーー、クンクン」
綱を引かれて首を絞められたのか息が出来ないらしく、苦しさのあまり大きくげっぷをして悲しげに鳴いてみせます。どうも、なにかが気になるようです。昔ならこんな時には、オシッコをして縄張りのマーキングをしていたのですが、最近は全くと言っていいほどマーキングをしなくなりました。いい年になったから縄張り意識がなくなったのか・・・
そうそう、老いたサクラにも驚くことに、今年もまた生理が始まったのです。
(そうか・・・・・、どっか近所の野暮な雄のノラ犬の匂いでもしていたのか・・・・・・、恋人をつくらないように処女のままでいさせたからか・・・・・・・・・・・・・、不憫なことよのーサクラよ)
写真をご覧になればお判りの事と思いますが、うちのサクラのその美貌は、人間界で喩えるならば、さしずめ藤原紀香というところでしょうか。その可憐さはアイススケーターのなんとか真央ちゃんのような、そんなワンちゃんです。
親の私共も、草鞋の裏のような顔をした、その辺のノラ公では野暮ったくて相手として不足だったのです。それに同じシェルティーでも、やはりご面相が悪いものしかいなかったものですから、とうとう婚期を逃したというところです。
(俺が犬の世界でいたなら、こんなべっぴん、ほっとかないのになー、ワンちゃんの世界では藤原紀香なんだから・・・・、いや、シャラポワかな・・・・・、それとも、昔の辺見マリかな・・・・・)
なんか好みが知れそうだからこの辺で。
■来年の干支は犬だから・・・・・・・・・・・の巻■
「なんか最近、家族みんなでメールで写真を交換してばかりだけど、なんなの・・・・」
先日来、みんなが嬉々としてメールしあっていることに気づいていた私は、家内に聞いたのです。
「来年の干支は犬でしょ、なら分かるでしょ・・・・・・・・・・・・・」
「だからなんなの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「何言ってんのよ、年賀状のモデルの事よ、みんなサクラにするんだから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱし、そんなことか・・・・・・・」
そういえば、家内はインクジェット用の年賀状を、いつもより随分と早めに用意しているようです。
とにかく、やっとうちのサクラも役にたつことが出来るのです。年賀状のモデルです。
月に二回のシャンプーやら、獣医通いやら、盗み食いやら、とにかく我が家の浪費の権化のような三女ですから、やっと少しは埋め合わせをしてくれそうです。それにしても、12年前の頃がずーっと可愛いかったのですが、当時は簡単に我が家でのカラー印刷など出来なかったのですから、たぶん、今回が最後の干支のお披露目という事になります。
「そうか・・・・・・・・・、今年が最初で最後の年賀状デビューか」
なんかしんみりとしてきます。
「あー、ヨチヨチ、本当にサクラはカワイ子ちゃんだね・・・・・・・・」
なんぞと言って、普段にも増して可愛がっても、コタツの布団の上で物憂げにこっちに視線を送るだけの態度です。まるでネコのように無反応です。
「なんだなー、母さん、我が家は子供も犬も、甘やかされ過ぎて親の愛情を当たり前のように思ってる。母さん、お前さんが普段から甘やかすから、怠け者で、過保護で、どうにもならないじゃないか」
「それは貴方でしょ、過保護の御大は・・・・・・・・・・」
「何言ってんだ・・・・・・・・・・・・・・、まっ、やめとこ」
確かに家族の教育と躾に対しては、家長である私に全責任があるんだから。
あくる日、私は時間と金の両方が無いがため、1680円の散髪にいって参りました。その夜家に帰ると、可愛いサクラが見当たりません。
「母さん、サクラはどうしたの」
「サクラはシャンプーに行ってます」
家内はすぐに私の短くなった頭に気づいたようです。
「それより今回は随分と短く髪を切ったわね、なんか変よね・・・・・・・」
「そうか・・・・・・、少し短く切りすぎたかな、まっ、これで二ヶ月は大丈夫だ・・・・・・・・・・・・・・・」
こんなに短く切ったのは始めてだつた私は、髪を撫でながら少し後悔しました。
そこで突然、玄関が騒がしくなり、サクラがトリマーのおばさんに連れられてご帰宅となりました。
玄関から尻尾を振り振り居間に入ってくると、家内と息子が、やれ、カワユーイとかなんとか言っては、サクラを抱きかかえます。
「しかし、なんだなー、一月に二回もサクラが散髪して、しかも料金は俺の倍か・・・・・・・・・」
「エッ、なんか言った・・・・・・・・・・・・・・・・」
「うーーーーーー、ワンワンワンワンワンワンワン」
■ うちのサクラがどんなに可愛いか・・・・・・・の写真■
どうですか皆さん、嘘じゃないでしょう、うちのサクラの美形は。これでこそ我が家のお姫様です。だから、深窓の令嬢として処女を全うさせたのです。その辺の野暮なオスのノラ犬が相手では、お天道様が許しても、我が家の家族が許しません。まったく人を疑わないこの澄んだ瞳、車窓からのやんごとなき物腰、寝入っている姿のこの無防備さ、氏素性は勿論ですが、小林家で一生を送る者の特権がこの姿に顕れているのであります。
えっ、なに、単に過保護でしかない・・・・・・・・、馬鹿をお言いではありません。ご主人様は容赦なくキビシーのです。例えば、頻発する夫婦・兄弟喧嘩の仲裁、寝相の悪い私の足蹴り、などに耐えに耐えてのサクラの今があるのです。そのような容赦なくキビシー環境で鍛えて、人格ならぬ犬格を養ってきたサクラ。
あー、サクラは孝行娘でございます。ジャンジャン・・・・!
■ ♪〜いーぬはコタツで丸くなる〜♪って、どこの犬の話・・・・・の巻 ■
寒くなりましたね・・・・温暖化が進んだとはいえ、やっぱり冬は寒い、ですよね。我が家は、特に父親である私の過剰なる愛情により過保護にされためか、全員、オール、みんな、ごっと、ストーブ好きなんですよね、これがどうした訳か。家内などは、持病もあって、布団にもぐり込んでは頭を出し、その頭に向かってファンヒーターで熱風を当てるという、他人が見れば仰天するような就寝姿で冬の夜を乗り切っております。
かく言う私も、上下の厚い毛布でサンドイッチになり、その上に厚手の布団をかけて、顔の中では鼻だけを外に出して寝ております。殆ど蓑虫状態で、御身大切で寝ておりますが、勿論、一夜で脱皮しては蝶や蛾になって、飲み屋街を飛び回る事はありません。50歳ともなれば、摂生ににつとめて穏やかな夜を過ごさねば、寝ている間にお釈迦様になったり、天に召されたりする可能性もありますすから、特に寒さには気をつけております。
そんな我が家にあって、天然の毛布を身に付けたものが一人だけおります。勿論、我が家の三女、サクラでございます。生まれは、北海に面するイギリス領シェットランド島という酷寒の地であり、その地の屋外で羊番をしていた訳ですから、当然、寒さには強いはず、ではありません。
ストーブ大好き、毛布大好き、人間の食べ物大好き、一人寝は嫌い、外は嫌い、他人は嫌い、ペットフードはしぶしぶ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
我が家では「お公家様」とも呼ばれる身ですから、とても室内の廊下などでは寝ません。寒くて気に入らないのです。それに第一、自分は人間であると思い込んでいますから、当然、布団で寝るものとしているようで、廊下で寝させると、一晩でも鳴き続けては、その悲鳴で他の家族を不眠にさせるという嫌がらせをして、もう何が何でも部屋で寝てしまうのです。
「なんだよー、か−ぁさん、玄関も廊下も綿ボコリがあるじゃない・・・・・・、なんとかならんのかいなー」
疲れきった帰宅の第一声で、私がそう叫ぶと、
「そんな話は、サクラにしてよ。私の許可なしに貴方が飼ったんだから・・・・・・」
「されを言っちゃーおしまいだろう・・・・・」
「それなら、外に繋ぐの、あの可愛いサクラさんを・・・・」
「それも言っちゃーおしまいだろう・・・・・」
「お前が掃除すればすむ話じゃない・・・・・」
「毎日掃除はしてます。サクラが家中を歩き回るからでしょー」
「それも言っちゃーおしまいだろう・・・・・」
「それより、今日は貴方がなげておいた服の上で寝てましたよ」
「それりゃ、本当におしまいだ・・・・・・」
「コートですよ、貴方の大事な・・・・・・・」
「ウッソー、カシミヤのコートの上で寝ていたのかよ−・・・・・・・・・・・・」
こんな按配ですから、我が家ではあまりホコリには無関心になりつつあります。というのも、最近は歳と共にサクラの脱毛が激しく、身体も痩せ細ってきたのです。カワユーイ、チャクラちゃんの健康が何よりですから・・・・・
「エサはたらふく食べさせなさいよ、冬はカロリーがないと、ちゃむいんだから」
「カロリーは充分ですよ、エサは大盛りで2食、それに饅頭も一つに、ケーキも食べたし、テーブルの焼き魚の残りも食べたし・・・・・」
「いや、もう結構です。こっちが満腹です」
そんな訳で、我が家の三女は外の寒風をよそに、毎日深い惰眠とテーブルの上の人間食を、それこそ貪っているのです。
上の写真は、たらふく状態での昼寝姿です。
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